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高山病対策/山ガールスタートマニュアル

掲載日:

2018年06月19日

登山知識・技術

標高の高い山への登山で注意したい高山病。今回は、高山病になる原因や対策について、運動生理学の専門家にご説明いただきました。

「高所」とは?

7月に入り、富士山が山開きを迎えました。今年も富士山には多くの登山者が訪れることが予想されています。環境省は、7月〜8月の2ヶ月間での富士登山者数は、2005年は20万人でしたが、2010年は30万人が訪れていることを報告しています。とても人気のある富士山ですが、山頂の標高は3776mであり、登山中に高山病を発症する危険性も高いです。
実際に、富士山吉田口の8合目の診療所を訪れた人のうち、8割が高山病の症状だということも報告されています。

では、どのくらいの高度から高山病の危険性があるのでしょうか。高山病の症状を高度別に表すと、高度1500〜2500mは「準高所」であり、重症の高山病は起こらないとされています。そして、高度2500〜3500mは「高所」であり、高山病の発症率は高くなり、特に、2500m以上に急速に登った場合に発症しやすいと言われます。さらに、3500〜5800mは「高高所」とされ、高山病は多くの人に見られ、特に運動した場合に起こりやすいとされています(図1)。
このような分類と国内の山域を照らし合わせてみると、日本アルプスや八ヶ岳などでも「高所」に分類される山は多く、富士山以外でも高山病の発症リスクに気をつけることが必要だということがわかります。

高山病と体内の様子

私たちは呼吸により、酸素を吸って活動していますが、標高が高くなると外気の酸素量が減るため、体内の酸素も少なくなります。その状態を放置してしまうと「高山病」を発症してしまいます。高山病の症状は、頭痛が主な症状で、その他に吐き気やめまいなどがあります。悪化すると肺水腫や脳浮腫の危険性もあります。しかし、初期症状は必ずしも痛みや苦痛ではなく、「山酔い」と呼ばれるようにボーッとする、ふわふわする、といった気付きにくい症状でもあります。 

また、高山病が発症する状況は個人差があります。例えば、運動中に発症する人や、睡眠中・睡眠明けに発症する人など様々です。体調によっても異なります。どのような人が高山病になりやすいのか、まだはっきりとしたことはわかっていません。体力がある人や若い人が高山病にならないわけでもありません。そのため、高所に行く場合は、以下の対策をしっかり行い、さらには自身の体調を把握しながら登山を行うことが重要です。
体内の酸欠度合いを表す指標として「動脈血酸素飽和度(SpO2)」というものがありますが、これを測定できるのがパルスオキシメーターという測定機器です。

一般的に、低地でのSpO2は96〜100%が正常値だと言われ、低地の医療では90%以下になると在宅酸素療法が適用されます。しかし、図3を見ると、富士登山は海外の高所トレッキングよりも体内の酸欠度合いは低い値となっています。これは2500mの五合目まで一気に車で移動し、その後、1000mほど高度を上げる富士登山特有の高度上昇量の大きさが原因です(図3)。

このように、高度が高くなると高山病の発症リスクも高くなりますが、単純に「高度」だけではなく、1日の高度上昇量の大きさもSpO2の低下には影響を与えていることがわかります。

高山病対策

高山病対策には自身でできる4つの方法があります。4つのうち、一つが欠けても高山病症状を発症してしまう可能性があります。以下の4つをしっかり守って登山をしましょう。

1.ゆっくり行動する
高山病を防ぐために守らなくてはならない登り方として二つの原則があります。まず一つ目は「登山を開始して1日目に寝る高度は2500m以下にすること」、二つ目は「高度2500m以上の場所では、寝る高度は前日よりも500m以上にしないこと」です。しかし、国内の登山でも必ずしもその通りにならない場合もあります。
また、高度が上がるにつれて体力は低下します。例えば、低地での体力を100%とすると、富士山頂での体力は80%ほどにまで低下します。そこで長時間の登山を続けていると、体力の低下は想像以上のものになります。
そのため、高所ではゆっくり行動することが高山病対策には重要です。ペースは低山歩きの1.5〜2倍以上の時間をかけて歩くくらいを目安にするといいでしょう。ペース作りで役に立つのが「Seiko Prospex Alpinist」です。この時計は登山中の登高速度を測定することができます。低山登山のペース、高所登山のペースを測定しながら登ることで、高所でのペース配分を守ることができます。



2.水分補給
富士登山中に高山病を発症した人の大半は脱水症状も併発していると言われます。高所環境は湿度が低い上に、無意識のうちに呼吸数も増加しています。気づかないうちに脱水になっているのです。脱水になると、血液の流れが悪くなり、酸素がしっかり運ばれなくなります。それだけではなく、思わぬ疾患を招く可能性もあります。
高度2500m以上での登山では、前回記事「登山とダイエット」で紹介した水分消費量でしっかり脱水量を求め、さらにこまめに水分補給を行うことを心がけてください。「アミノバイタルウォーター」などで電解質の補給も合わせて行うと良いでしょう。

3.エネルギー補給
高所環境ではエネルギー消費量は大きくなります。脱水と同じく、気づかないうちにエネルギー不足(シャリバテ)になる可能性があります。シャリバテになると、ボーッとしたり、眠たくなったりします。この症状は、高山病の初期症状にも似ています。シャリバテなのか高山病なのか区別がつきにくい場合もあるため、エネルギー補給はしっかり行いましょう。また、疲労などから内臓の機能が低下し、一度に食べることができる量が少なくなる場合があるため、こまめに摂取していくことが重要です。どうしても食欲が落ちた場合は、エネルギー飲料などで補給することもお勧めです。「アミノバイタルパーフェクトエネルギー」は130gで180kcalを補給することができます。

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4.意識的に呼吸をする
高所では酸素が少なくなるため、意識的に呼吸をして、酸素を取り入れることが重要です。そのためには、息を吸うのではなく、吐くことを意識して行うようにしてください。口をすぼめてろうそくを吹き消すような「口すぼめ呼吸」が有効です。口すぼめ呼吸を行うと、うまく酸素を取り込むことができ、SpO2が上昇します(図4)。

以上の4つを実践していても、環境や体調などによっては高山病を発症する可能性もあります。高山病は我慢していてもよくなるものではありません。調子が悪い時は、高度を下げるという選択も重要です。

高所環境での体調チェックと低酸素トレーニング

高山病ってどんな症状なの?私は高山病になりやすいの?どうしたら回復できるの?そのようなチェックをできるのが、世界最高齢(80歳)でエベレストに登頂した三浦雄一郎氏が運営する「ミウラ・ドルフィンズ」の低酸素プログラムです。

実際に低酸素室に入室して、専属の低酸素トレーナーの指導のもと、自身の体の状態を測定することができます。安静・運動だけでなく睡眠状態まで測定できるのが「海外高所テスト」、安静・運動のみの簡易測定が「富士山テスト」。
ここの施設では、高所環境での自身の体調をチェックするだけでなく、実際に低酸素トレーニングも受けることができます。目的地の標高や自身の体調チェックの結果から、トレーニングプログラムを作成してもらうことで、高山病対策を事前に行うことができます。
※詳細はホームページをご覧ください。

参考文献

1)山本正嘉「登山の運動生理学とトレーニング学(東京新聞出版局、2017)」
2)安藤真由子ら「低酸素環境に対する適正と行動適応能力を判別するための常圧低酸素室を用いた「高所テスト」の開発(登山医学、2014)」
3)安藤真由子ら「動脈血酸素飽和度からみた高所トレッキング時における身体への負担度(ウォーキング研究、2016)」

文・監修:健康運動指導士 安藤 真由子

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